ステップ5: ライトの制御¶
Tankモデルはライト(光源)を搭載しています。ステップ5ではこのライトをコントローラから操作できるようにし、デバイスを制御する方法について学びます。
環境設定¶
ライトを使用するにあたって、その効果をより分かりやすくするための環境設定を行うことにしましょう。
シーンレンダラの変更¶
Choreonoidの内部では、モデルを3DCGとして描画する部分を「シーンレンダラ」と呼んでおり、この部分の実装によってシーンビュー等での描画能力も変わってきます。
これに関して、実はChoreonoidの開発版には新しいシーンレンダラの実装が含まれています。これはGLSLというシェーディング言語を用いて実装されているもので、内部的には 「GLSLシーンレンダラ」と命名されています。このレンダラを使用することにより、光源による物体の照射をより正確に描画できたり、それによって生じる影を描画することも可能となります。つまり、よりリアルなシーン描画を行うことができるというわけです。これはTankモデルに搭載されたライトの効果を高めるためにも有効ですので、今回この機能も使ってみましょう。
GLSLシーンレンダラは現在開発中のこともあり、デフォルトでは使われないようになっていますが、環境変数 "CNOID_USE_GLSL" を設定することにより利用可能となります。具体的には、Choreonoid起動時に、
CNOID_USE_GLSL=1 choreonoid
といったかたちで、この環境変数の設定を付与することにより、起動されたChoreonoidではGLSLシーンレンダラが使われるようになります。あるいは、あらかじめ
export CNOID_USE_GLSL=1
というコマンドをどこかで実行しておけば、それ以降はこの環境変数の設定が有効となります。
注意点として、GLSLシーンレンダラを利用するためにはOS上でOpenGLのバージョン3.3以降が利用可能となっている必要があります。これ自体はそれほど新しいバージョンでもないのですが、PCのハードウェアやOSのバージョンによっては対応しないこともありますし、仮想マシン上で動かす場合も対応しなくなる可能性があります。
Ubuntuでは、利用可能なOpenGLのバージョンは"glxinfo" というコマンドで分かります。このコマンドは
sudo apt-get install mesa-utils
を実行するとインストールされます。そして
glxinfo
を実行することでその環境で利用可能なOpenGLに関する情報が表示されます。この中に
OpenGL version string: 4.5.0 NVIDIA 375.39
といった表示があれば、OpenGLの4.5.0までサポートされていることになります。
ただし、OpenGLの3.3がサポートされていても、環境によってはうまく動作しないこともありますので、ご了承ください。特に、nVidia以外のGPUをお使いの場合や、仮想マシン上で動作させている場合、うまく動作しないことが多いようです。その場合は上記の環境変数をクリアして、デフォルトのシーンレンダラを使っていただくことになります。
注釈
GLSLレンダラがうまく動作しない場合でも、Choreonoidが使用するQtのバージョンを5にする動作することがあるようです。QtはGUIのライブラリで、デフォルトでバージョン4が使われるようになっていますが、cmakeの設定で "USE_QT5" をONにするとバージョン5が使われるようになります。
環境モデルの変更¶
これまで使ってきた床のモデルだけだと、ライトが照射されてもあまり代り映えがしません。そこで環境モデルも変更することにしましょう。今回はChoreonoidのサンプルとして用意されている "Labo1" というモデルを使うことにします。これは以下に示すような、研究用プラントを想定したモデルとなっています。
このモデルはChoreonoidのshareディレクトリの "model/Labo1" に "Labo1.body" というファイル名で格納されています。これまで作成してきたプロジェクトに追加して、このモデルを読み込んでください。
読み込んだアイテムのアイテムツリービュー上での配置は、他のモデルと同様にWorldアイテムの小アイテムとします。アイテムのチェックが入っていなければ、チェックを入れてモデルを表示しましょう。シーン内でのモデルの位置はデフォルトのままでOKです。そして、これまで読み込んでいた床のモデルである "Floor" アイテムは削除しておきましょう。アイテムを右クリックするとコンテキストメニューが表示されますので、そこから「カット」を選択することで削除できます。以上の作業を行うと、アイテムツリーは以下のようになっているかと思います。
なお、アイテム間の親子関係が同じであれば、アイテムの並び順はどうなっていてもOKです。なので例えばLabo1がAISTSimulatorの次に配置されたりしていてもかまいません。もし並び順が気になる場合は、アイテムをドラッグすることで並び順だけ変えることもできますので、そこは好きなように設定してください。
シーン設定の変更¶
次にシーンの描画に関わる設定を変更しましょう。これを行うにあたっては、まず以下のシーンバーの「設定ボタン」を押します。
すると以下のような設定ダイアログが表示され、シーン描画に関する各種設定を行うことができます。
まず「床グリッド線の表示」のチェックを外して、グリッド線を表示しないようにしましょう。
次にライティングの設定をしましょう。まず「追加のライト」はオンになっていますでしょうか?ここがオンになっていれば、Tankモデルに搭載されたライトも有効となります。
そして、「ヘッドライト」と「ワールドライト」をオフにしてみましょう。すると下図のように、暗闇の中でTankモデルのライトのみが辺りを照らしているようなシーンになるかと思います。
これでライトの効果がはっきりと分かりますね。(デフォルトのレンダラを使う場合は、ライトの照射がもう少しぼやっとした感じになります。)
ただしここまで暗くしてしまうと、シーンの一部しか見えなくなってしまうため、操作がしづらいかもしれません。そこで先ほどオフにした「ヘッドライト」や「ワールドライト」によるライティングも少し取り入れてみましょう。
まず、設定ダイアログで各ライトをひとつずつオンにしてみてください。するとそれぞれシーンが明るくなるかと思いますが、シーンの照らされ方は少し異なるのが分かるかと思います。「ヘッドライト」は視線の方向に向けて照射されるライトとなっており、「ワールドライト」はシーンの上部から下方に照射されるライトとなっています。次に両方のライトをオンにして、各ライトの強さを設定ダイアログの「照度」で調整しましょう。デフォルトの照度だとシーンが明るくなりすぎて雰囲気が出ないので、この値を適当に下げつつ、操作もしやすい明るさに調整してください。
さらに、GLSLレンダラを有効にしている場合は、影も表示することができます。これは設定ダイアログの「影1」「影2」のチェックで設定します。それぞれ「ライト」に対象となるライトの番号を入力します。番号は0がワールドライト、1以降がモデルに搭載されたライトとなりますので、それぞれ有効にしてみて、表示がどのように変わるかを確認してください。
ヘッドライトとワールドライトの照度を調整し、ワールドライトとTankモデルのライトによる影を有効にしたシーンの例を、下図に示します。
これでシーンの雰囲気がそれらしくなってきました。ここまでの設定を "step5.cnoid" といった名前のプロジェクトファイルとして保存しておきましょう。
ライトのコントローラ¶
環境設定が長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。今回作成するのは、Tankモデルのライトを操作するためのコントローラで、これを "LightController" とします。このコントローラのソースコードを以下に示します。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 | #include <cnoid/SimpleController>
#include <cnoid/SpotLight>
#include <cnoid/Joystick>
using namespace cnoid;
class LightController : public SimpleController
{
SpotLight* light;
Joystick joystick;
bool prevButtonState;
public:
virtual bool initialize(SimpleControllerIO* io)
{
light = io->body()->findDevice<SpotLight>("Light");
prevButtonState = false;
return true;
}
virtual bool control()
{
static const int buttonID[] = { 0, 2, 3 };
joystick.readCurrentState();
bool changed = false;
bool currentState = joystick.getButtonState(buttonID[0]);
if(currentState && !prevButtonState){
light->on(!light->on());
changed = true;
}
prevButtonState = currentState;
if(joystick.getButtonState(buttonID[1])){
light->setBeamWidth(std::max(0.1f, light->beamWidth() - 0.001f));
changed = true;
} else if(joystick.getButtonState(buttonID[2])){
light->setBeamWidth(std::min(0.7854f, light->beamWidth() + 0.001f));
changed = true;
}
if(changed){
light->notifyStateChange();
}
return true;
}
};
CNOID_IMPLEMENT_SIMPLE_CONTROLLER_FACTORY(LightController)
|
これまでと同様に、上記ソースコードを "LightController.cpp" というファイル名でプロジェクトディレクトリに保存します。
CMakeLists.txt に
add_cnoid_simple_controller(TankTutorial_LightController LightController.cpp)
を追加して、コンパイルを行って下さい。
コントローラの導入¶
ステップ4で導入したTrackControllerと同様に、LightControllerについても対応するシンプルコントローラアイテムを生成し、これをTurretControllerの小アイテムとして配置するようにしてください。これを行うと、アイテムツリービューは以下のようになります。
このように配置することで、TurretController、TrackController、LightControllerのcontrol関数が順番に呼ばれ、これらが一体となって機能することになります。
ライトの操作¶
シミュレーションを実行して、ライトの操作ができるようになっていることを確認しましょう。
ライトの操作はゲームパッドもしくは仮想ジョイスティックビューのA、X、Yボタン(プレイステーションのゲームパッドの場合は×、□、△ボタン)に割り当てられています。
まずAボタンでライトのオン・オフを切り替えられます。
また、X、Yボタンで、ライトの照射範囲を変えられます。Xボタンを押すと照射範囲を狭くし、Yボタンを押すと広くします。
これまで実現してきたクローラや砲塔の操作も引き続き可能ですので、Tankモデルを移動させながら、Labo1の様々な箇所をライトで照射してみてください。
なお、シミュレータアイテムのプロパティである「デバイス状態の記録」がtrueになっていれば、ライトの操作についてもシミュレーション結果として記録され、 シミュレーション結果の再生 の際に再現されます。このプロパティはデフォルトでtrueになっています。この機能の確認のため、ライトをいろいろと操作した後にシミュレーションを停止して、シミュレーションの再生を行ってみて下さい。
実装内容の解説¶
Choreonoidではライトを「デバイス」のひとつとして定義しています。本ステップのポイントは、コントローラからデバイスへ出力を行う方法を知ることにあります。
まず、initialize関数の
light = io->body()->findDevice<SpotLight>("Light");
によって、入出力用Bodyオブジェクトから、SpotLight型で"Light"という名前をもつデバイスオブジェクトを取得し、これをlight変数に格納しています。デバイスに関しても、このオブジェクトを入出力用に使います。TankモデルのLightの定義については、 Tankモデルの作成 における スポットライトの記述 を参照してください。
control関数では、
static const int buttonID[] = { 0, 2, 3 };
により、ライトの操作に使うボタンのIDを設定しています。これらのIDが通常A、X、Yボタンに対応します。ボタンの対応がうまくいかない場合は、ここを調整するようにしてください。
Aボタンの状態について、
bool currentState = joystick.getButtonState(buttonID[0]);
で取得しています。このように、ボタンの状態はgetButtonState関数を用いて取得することができます。そして、
if(currentState && !prevButtonState){
light->on(!light->on());
changed = true;
}
によって、ボタンが押されたときに、SpotLightデバイスのon関数を用いて、lightオブジェクトのオン・オフ状態を切り替えるようにしています。
なお、入出力用デバイスオブジェクトの状態を変更しただけでは、その内容を出力したことにはなりません。これを行うには、デバイスオブジェクトに対して "notifyStateChange" という関数を実行する必要があります。これによって状態の変化がシミュレータ本体にも検知され、実際にシミュレーションに反映されることになります。
ただしこの関数は、デバイスの複数のパラメータを変化させる場合でも、(一回のcontrol関数呼び出しにおいて)一回実行するだけでOKです。このため、本実装ではまずchangedというbool変数を状態変化があったかどうかのフラグとして利用し、最後の
if(changed){
light->notifyStateChange();
}
でまとめて一回実行するようにしています。
ライトの照射範囲を変える操作についても同様です。照射範囲拡大の操作については、
if(joystick.getButtonState(buttonID[1])){
light->setBeamWidth(std::max(0.1f, light->beamWidth() - 0.001f));
changed = true;
によってXボタンの状態を判定し、ボタンが押されていればSpotLightのsetBeamWidth関数で、照射角度の値を減らしています。Yボタンの操作についてもこれと同様です。
デバイスの扱いに関しては、より詳細な解説が コントローラの実装 の デバイスに対する入出力 以降の節にもありますので、そちらもご参照下さい。